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いま、会いにゆきます

あまりにも有名になったこのいささか感傷的に過ぎる小説のテーマは、「選択」ではないか。
小説のヒロイン澪は、ある夏の日ある重大な選択をしてある人々に、会いにゆく。

六月のやさしい雨、森の中の廃屋、エンデの「モモ」、死んだ人間が暮らす星・アーカイブ星、誰よりも愛し誰よりも愛してくれた美しい妻とその想い出、忘れ形見となった彼らの息子。
これで泣かなかったら人間じゃない、と言わんばかりの道具立てでずるいことこの上ない。
しかし、心をゆさぶる小説とはたいていずるいものなのです。

重要な登場人物(といってもこの小説の登場人物は片手で足りる)に、妹の看護に一生のほとんどを費やして抜け殻のようになったノンブル先生とその飼い犬プーがいる。
小説の後半でノンブル先生は病に倒れて入院し、飼い主を失ったプーは路頭に迷うことになり結局は失踪し行方がわからなくなってしまう。以前の飼い主の元で声帯除去手術を受けたプーは声を失っているのだが、ノンブル先生と暮らした家を離れる時に、風のような声にならない叫び声をあげる。
終始主人公とその失われた妻を中心に語られるこの物語の中で、このエピソードだけが妙に不自然に挿入されている。そのことには、さりげなく重要な意味が込められている。

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