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21世紀の自然生活人へ―The Cold Mountain's Letters

日本語の文章で、個人的にもっとも好きなのは田渕義雄さんのそれ。
小説家ではないし、エッセイストでもない。いわゆるアウトドアライターのはしりのような作家である。
長野・川上村に、十数年前から暮らしているそうだ。
色とりどりのハーブや野菜が植えられた菜園に囲まれ、自作の家具や古い道具達が静かに配置された、森暮らしの家はため息がでるほど美しい。
都会的で、快楽的で、自然回帰的な、ソローヴィアン。
そんな言葉誰も知らなかった時代から、LOHASな生活やってたんだよね。
その孤独癖ゆえに、あまり評判は芳しくないという噂もあるようだが、とにかくぼくは彼の文章がスキ!

一文一文を連ねたリズムで一遍の詩のように文章を構築する人だから、断片的に抜き出すのは気が引けますが、この本ではこんな感じ。

散歩は冬の自然趣味。しんみりと物思いながら、あてどなく歩くのはいい。
生きていることの淋しさを踏みしめながら歩くのがいい。
存在は淋しい。しかし、この淋しさ故に、詩があり、絵があり、音楽があり、そして自然趣味がある。淋しさのない趣味にはろくなものがない。憂いのない女には美しさがない。
-中略-
散歩はいい。人も犬も、歩くことによって、肉体と心が健全になるのだと思う。

この本は雑誌の連載を単行本化したものである。
執筆された当時、地下鉄サリン事件が起きた。
村上春樹さんと同じように、孤独なこの作家も、事件を契機として自らのスタイルで社会へコミットメントしていくことを考えはじめるくだりには、胸を打たれた。

愛犬の次郎が、たびたび登場します。

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古道具 中野商店

西東京の街の古道具屋「中野商店」、そこに集う人々。
それぞれのじれったい恋のようなもの、あるいは恋そのもの。
小道具も、科白も、行間の空気感も、まさに川上弘美ワールド。

登場するアパートの大家夫妻は、大きなアフガンハウンドを飼っているが、やがて死んでしまう。
主人公ヒトミが、恋のような友情のようなあいまいな感情を抱くようになるバイト仲間のタケオは、「犬が死ぬと、つらい」とぽつりとつぶやく。
同級生のいじめによって小指の先を失った過去を持つ彼は、子供の頃から飼っていた犬が去年死んだから中野商店で働き始めた、と言う。

この小説で犬が出てくる場面は、このちょっとしたエピソードだけ。
でも、この作家は犬と暮らすということの究極的な意味を、自らの小説に残酷に利用する。

犬は飼い主より、早く死ぬ。
飼い主は犬より、早く死んではいけない。
犬と暮らすということは、その死を必ず受け止めなければならない、ということ。
愛する者の死を、必ず受け止めなければならない、ということ。


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